ふくろう神社始末記

今日は書きたいことが2つある。1つは京都大学の本庶教授がノーベル賞を受賞されたという話、もう一つはかねてから計画していた「ふくろう神社」へ詣でた話だ。どっちを書こうか迷ったが、本庶教授には悪いが私的なインパクトから今日はふくろうの方をお話したい気分である。

ホームページでは「ふくろうの侘び住まい」などと洒落めかし、立川の「知の木々舎」(注1)なるサイトでも「梟翁(きょうおう)夜話」と題してさまざま身の回りの話を月に2回ほど書いているなど、私のふくろうへのこだわりを知っている愚妻は、どこで聞き知ったか「ふくろう神社」なる珍な社を探し出し、頃合いを見て私を連れて行こうと算段していた。

台風24号をやり過ごし、一過のあとの秋日和を選んで今日、嬉々として私を連れ出したのである。多少の膝の拘りはあっても、私は一も二もなくその気になったのは言うまでもない。

(注1)ブログマガジン「知の木々舎」https://chinokigi.blog.so-net.ne.jp/

前触れ話によれば、この神社はふくろうに拘るだけでなく、その本殿を栃木と茨城の県境が縦真っ二つに走っているという、珍と言おうか奇と言おうか、世にも稀な神社だという。そのこととふくろうが重なって、物には滅多に動ぜぬ私が、妙に胸躍る気分になったのは気恥ずかしい。

圏央、東北と高速を乗り継いで那須塩原で地上へ、東へ数10キロ走ってふくろう神社に着いたのが昼過ぎ、腹ごしらえに門前の茶屋に入って、膝を撫でながら山上にあるという本殿への道すがらを目論んでいたが、老骨を労ってか茶屋の女性が二人、しきりに話しかけてくれる。愚妻を相手に、本殿までの階段の数がふくろうに懸けて96段だとか、手摺りがあるから安心でしょうとか、帰りの道は裾を回って段のない道があるなどなど、思いもかけぬ親切。一部始終を聞きながら思う、白髭と作務衣と杖の威力絶大なり。

↑茶屋の人気メニュー、山菜おこわ定食がおいしかった

思わぬ思いやりを受けて、私としては何としてもその96段を登り切らざるべからずの心境だ。日頃から痛みよりも不用意に壊して仕舞ったあとの災難を考えて、必要以上に爪先探りで歩く癖がついている私のことだ、問題の96段は手摺りを頼りに何気ない風に登り切った。振り返りこそしなかったが、じつは登りながら背後に例の茶店の女性たちの心配げな視線を感じていたこともある。登り切った最後の右膝が、気の緩みと同時にがくんとしたのを覚えている。

境内は処嫌わずふくろうだらけだ。大小さまざま、表情も多彩なふくろうが気なしか私を見詰めている。私はふくろうのあの一徹な視線がいいと思う。射竦(すくめ)る目ぢからが魅力だ。何時からかふくろうに親しんできた私は、自分のやることなすこと、ごくふくろう的だ思う。知恵もあろうが何よりもあの一徹さが生む清々しいさまに常に自分の生き様を重ねてきたように思うのだ。

帰路、益子へ回ると愚妻。ふくろうの作りものでも見て帰ろうという。時間の心配をしつつ40キロ弱の道のりをふくろう話で乗り切って現地に着けばすでにセンター閉店20分前、だめもとで見つけた格好のふくろうの焼き物、これはよきものとみとれる私を見るや、愚妻はほどほどの値段をどこ吹く風と即決で買い上げた。先刻ふくろう神社で求めた幸運御守が速くも効いたか・・・。いや、これもあろうが、どうやらこの焼き物には日頃歳にめげず勤しむ私への愚妻の思いが乗り移ったと思えてならない。

益子から桶川へ、真西に向かってひた走る車窓には落日の茜色が見事だった。カメラを速写設定に矢鱈にシャッターを切ったが、果たして何枚がまともな絵になっているか、これは帰って開けて見ての楽しみだ。もう一つの楽しみは、例のふくろうの焼き物が家でどう映るかあらためて眺めることだ。

ふくろう神社はまたの名、正しくは鷲子山上神社(とりのこさんしょうじんじゃ)という。

ふくろうで明けふくろうで暮れた一日、本庶教授のノーベル賞を明日に後回しした私の心情、お分かり頂けようか。

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