御茶ノ水の一日

紀元節(建国記念日)の2月11日、御茶ノ水駅に降り立った。何年ぶりだろう。御茶ノ水橋改札口を出て、吟行場所の神保町を目指して歩く。左側の楽器店が連なる風景はあまり変わらない。けれど右側の明治大学にはなかなかなじめないものがある。明大が高層ビルになってからずいぶん経つけれど、煉瓦の校舎をつい懐かしがってしまうのだ。

神保町に着いたのは10時半前。歩いているうちにちらほら本屋が開き始めた。店の前の500円均一のワゴンに野上弥生子の「秀吉と利休」を見つけた。ちょうど彼女の「花」というエッセイ集を読んでおり、このタイトルも読みたいと思っていたので購入した。

昔ながらの喫茶店「さぼうる」のある裏道に入る。さぼうるは今日と明日休みとのこと。近くに「タムタム」という喫茶店を見つけた。前日ネットでホットケーキの写真を見て、ここで食べようと決めていた店だ。11時の開店と同時に入り、ホットケーキと珈琲セットを注文した。

ザ・ホットケーキといわんばかりの堂々とした姿が良い。ナイフを入れると、表面にカリっとした固さがある。中はフワッとしていて美味しい。ホイップクリームとメープルシロップで変化をつけながら食べ進んだ。けれど、最後の何切れかは胸焼けとの闘いの末、むりやり詰め込むこととなった。表面をカリっとするためだろう、油がとても多かった。

ここで一句。 < 春めくや ホットケーキで 腹温し(ぬくし) >
本音では「腹温し」ではなく「胸焼けし」だった。やはり年のせいもあると思う。

胸焼けを抱えながら本屋街を歩き、吟行を続けた。途中、老舗の画材屋「文房堂」で、梟の置物を見つけて衝動買い。この置物、もし梟翁がいたら絶対手に入れたに違いない。

書泉グランデに10年以上ぶりに入ってみた。入った一階フロアは本よりもウルトラマンなどのキャラクターグッズが場所を占めており、若者好みの軽い本ばかりでも本がたくさんあったと記憶していたのでさすがに驚いた。三省堂にも行きたかったが、時間がなくなり御茶ノ水駅近くの句会場へと急いだ。

句会は70代〜80代の参加者もいて、「岩波ホールの跡地に立つ」「周恩来も通った」など歴史を感じさせる句が床しかった。「文人の集いしホテル」で始まる句で、山の上ホテルが休館になることを知った。また歴史が消えていくのかと思うと寂しい。

私は御茶ノ水にさほど縁がなかったけれど、学生の頃に何度か通った「ウィーン」という名曲喫茶が忘れられない。お城めかした大変目立った建物で、やや暗めの店内にクラシックが常に流れており、座り込んでゆっくりと本を読んだものだった。

ウィーンの外観

そこでは日曜日の午後、サークルの同輩が先輩とデートしているのを偶然見てしまったという微笑ましいエピソードもあった。が、何といっても驚いたのは、よど号ハイジャック事件のメンバーがここでハイジャックの打ち合わせをしていたと知った時だった。梟翁から勧められた「宿命」(高沢 皓司著) という本の中に記されていたのだ。ハイジャック犯たちが打ち合わせをする場面をリアルに想像して、ドキドキした。

余談になるが、「ウィーン」の写真を探していたら、ヤマザキマリさんが17才の頃アルバイトをしていたというブログを見つけた。もしかすると彼女とすれ違っていたかもしれない。とてもユニークな人々が交差するユニークな名曲喫茶だったのだ。

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