味は狭山でとどめさす

私は火事というものを経験している、それも一度ならず二度も火事に遭っているのだから、火事の怖さは身に沁みている。最初は学校にはまだ二年ほど、五つか六つのころ蒲田の家の裏で夜半に工場から出火、咄嗟にマクラを抱えて逃げ出したという、今では笑える記憶がある。二度目は戦中、疎開して居着いた母の里で、庭先の物置が出火して大騒ぎした。このときは、マクラならぬ消火の水運びの途中、「腰を抜かし」て往生する不手際で、これも今にして思い出しては苦笑する火事の経験だ。

恐縮ながら、今日の出来事は火事のことではない。その二度目の火事が、じつは祖父の啓次郎が自慢の茶作りを済ませた後の残り火が原因だったこと、つまり、祖父はそれほどに器用で自前の茶を焙煎していたこと、それに肖(あやか)ってわが家でも手前味噌ならぬ手前茶を作ろうではないか、という話しなのだ。

そこで、6月3日、折からお茶フェスタを企画していた狭山へ赴いた。圏央道を走って狭山まで、渋滞もなく快適なドライブ。会場周辺は土地柄の茶畑が一面。日柄もよく車寄せに苦労するほどの盛会だった。茶摘み体験もあり、なかには茶摘み娘のコスプレを施しての参加もあり、どこやらのテレビカメラも入っていた。

さて、早速の苗木探しだ。総合案内の傍らに格好なコーナーを見つけて物色、苗木職人の話で勉強しながら二種類、「ふくみどり」と「ほくめい」を合わせて十本求めた。結構な値段だったが、折角の手前茶のためだと奮発。これが帰宅して数えたら十一本入っていたというから、日頃の心がけの賜物か、わたしの「茶話」に惚れ込んでのお土産か、この際嬉しく頂戴することに。

だから、いまわが庵には二条の茶畑がある。果たして傘寿のわたしが手前茶を満喫できるか否か、わが家のもっぱらの話題である。

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