定型人口

とかく爺むさい話しで恐縮だが、わしの感覺では昨今もの事の「定型化」が気になってならぬ。仕草、語り口、ものの言ひ樣、すべてがカタカナならパターン化しておる。たしかにそのおかげで処理の円滑化はすすんでおる。

諸賢はお気づきかどうか、ものを食べに店にすわる。女給がくる(いや、女給は古風に過ぎる、ウエイトレスか)。メニュウを並べながらの科白が堂に入っているのに驚くのじゃ。すらすら、とな。立て板に水とは、あれじゃ。淀むところがない。それが、或るとき同じ店に入ったとき、わしは気づいたのじゃ。おや、別な女給じゃが同じ文句じゃないか?そうなのじゃ。耳をそばだてて他の席の様子と聞くと、左の通り、スラスラとやっている。ははぁ、これが昨今流行りのマニュアル・トークか。

むらっ気の多いわしは、一計を案じた。

通り過ぎる女給を呼び止めて、およそマニュアルには答えのなさそうなことを訊ねたのじゃ。不意を突かれた彼女は、とっさにしどろもどろになってのぅ。想像通りの反応に、わしは内心にんまりしたのじゃが、あの女給には惡いことをした。

わしが思うに、この傾向は昨今の日本人の生活パターンに沁み通っているのではなかろうか。本屋を覗くと、「こんなときにはこうしたら」という切り口の本のなんと多いことか。有象無象がしたり顔に書き散らかすこの手の本が、妙に賣れているらしい。賣れるだけ「定型人口」が増える。折々の対応ができる「当意即妙型人口」が激減する。まあ、サービス業は効率上許せようが、世間がこの方向へ流れてしまっては、一大事である。

剣呑な例へだが、火事の燃え方にパターンはない。だから消し方にもパターンはない。どう燃えてもいいように消し方を当意即妙に考えねばならない。それが生きる知恵というものだ。八方破れの身構えが、劍術の名人の極意とか。おお、剣術といへば、わしは最近一冊の書物を世に出したのじゃ。題して「グローバルエイジのスキル 二刀流翻訳術」といふ珍書じゃ。Kindle本で、まあ英語畑の後進たちへの応援歌じゃ。ご笑覧願ふ。

いかゞじゃろう、ミサイルやら異常気象やら騒がしい昨今、いざ、どこからでも掛かってこい、という姿勢こそが求められてはいまいか?多くの著者たちには言いにくいことじゃが、「どう生きるか」風な雑文は控えてはいただけないものか。

いや、爺むさい話しで恐縮じゃった。

ご機嫌よう。

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