羨ましきかな、英国民

わしは英国民が羨ましくてならぬ。齢九十歳のエリザベス女王は、ご即位以來のお気持ちそのままに、終生母国に尽くすと言われる。女王の御心をよしとして、感謝と崇敬の念でそれを受け入れる英国民の心根が限りなく羨ましいのじゃ。今盛りの譲位話しの対称に、わしは彼の国に一つの素晴らしい理想像を見る思いがするのじゃ。

人は老いれば気力体力が経たり、並みの人なら隠居もあろう。そうじゃ、並みの人なら身を退いて、諸事健やかなものに任せればよい。女王とて人の身、並みのご身分なら跡を譲って退かれればよい。それを承知で九十歳の老軀を鞭打たれるからには、女王には天与の義務ならぬ使命感がおありなのじゃ。王室を統べる身の宿命を、両目を開いて生き切ろうとしておられるのじゃ。英国民は女王の思いを体感し、崇敬の念を持ってお見送りする所存なのじゃ。

前々段に「譲位話しの対称」と書いたが、チャールズ王子やウイリアム王子らの立ち位置を見ると、どうやらわが皇室ご一家との妙なる類似が見えるのは眇(すが)めか。さして詳らかでない事柄じゃて、これ以上は立ち入るまい。ただ、一つ言擧げしておきたいことがあるのじゃ。

それはこうじゃ。九十歳のエリザベス女王にして終生を賭して王燈を守らんとされる。況んや、二六〇〇有余年の皇燈を守る立場の今上にしておや。わが皇燈は薨去(こうきょ)から即位へ連綿と継ぎ来った燈明じゃて、下世話の隠居話は馴染まぬのじゃ。皇燈を守るのは天皇一個人ではなく、皇室ご一家の務めなのじゃ。天皇ご一家はわれらが如き家族ではなく、遠く古(いにしえ)に遡る日本心を祀る技を受け継いで来られた祭祀の司なのじゃ。天皇はそれを束ねる頭領という存在じゃで、われらと同義の人間として遇してならぬのじゃ。自然人などの造語が飛び交っていた時があったが、それですらない。人間でありながら天与の務めを背負われた身、それが天皇なのじゃ。

わしは英国民の英知を讃える。軽薄な人権意識で女王に安樂な隠居生活を勧めることなく、女王ご自身の毅然としたお立場を汲み切って支えようと思い定めた英国民を、わしは眩しく見つめておる。

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