我が菜園は年々様々な作物でにぎわう。それでも得意不得意はあって、玄人のお百姓顔負けのものもあれば、よくまぁこんなものを手間ひまかけて作るもんだなと思われるものもある。それでも、悪くても笊(ざる)一杯ぐらい実りは上がるから、菜園は楽しい仕事場だ。
それが、である。収穫の秋を迎えて我が菜園に異変が起きている。楽しみにしていた隼人(はやと)瓜が今年は実をつける気配がまったくないのだ。葉もめっきリ枯れ、折からの台風で棚の一方が倒れたのをきっかけに、思い切って抜いてしまった。今年のただならぬ猛暑が原因だったか、あるいは施肥の不具合か、とにかく何百と付くはずの花実が見られなかったのだ。そう言えば、去年も数えるほどしか収穫がなかった。
隼人瓜は、それは面白い瓜である。苗ではなく瓜そのものをひと冬寝かせて芽出しをし、「苗」として初夏に畑に埋め込むのである。蔓が盛んに伸びてみるみるうちに棚を覆う。お百姓曰く、「余計に植えるとえらいことになるぞ」、隼人瓜の苗はひとつかふたつで充分だ、と。ある年、逆らって四つ植えて棚が崩れたことがたしかにあった。一本で百個以上も獲れるとの掛け声に負けての失敗だった。
それにしても、今年の隼人瓜はすこぶる付きの異常である。この瓜は、花がすべて瓜になる道理だから今年は棚が崩れる以上の失敗だった。納得いかぬ思いから、私は改めて手元の菜園マニュアルを具(つぶさ)に読み耽った。
余談だが、私は漬け物を好む。白菜の塩漬けの先に野沢菜、高菜、あわよくば根菜の味噌漬けなど、歳のせいばかりではない、何は無くとも味噌汁に漬け物がないと飯を食った気がしない。今年はダメ元でゴボウを植えてある。赤味噌漬けで食いたいからと、早くから愚妻に注文している。さて、この隼人瓜が絶品の漬け野菜なのだ。何年か前に、これの粕漬けを仕込んで貰って一年中賞味したのが懐かしい。だから、今年は隼人瓜の粕漬けはお預けになるのが哀しい。
読み耽りながら、私の目はある解説文に釘付けになった。「隼人瓜は孫蔓に実が付くから、親蔓は葉が四枚で芯を摘んで早めに子蔓から孫蔓の伸びをうながす」云々。目から鱗が落ちるのを感じた。実が孫蔓に付くとは知ってはいたが、親蔓を葉四枚で芯を摘んでしまうとは気づかなかった。千慮の一失である。
今年の夏は熱波熱波で世間が沸いた。傘寿の私も、人ごとならずの心境で恐々と猛暑に堪えた。隼人瓜が異様な枯れ方をしたのも熱波のせいだったかも知れぬ。親蔓は孫蔓を伸ばすに至らずに熱中症に倒れたのか…。私は熱波を呪いながら私の千慮の一失をしきりに悔いている。隼人瓜たちに済まないことをしたと思う。
そうか、親蔓は四枚葉で摘むのか。私はすでに来年の隼人瓜の植え付けを考えている。四枚葉で摘心された親蔓が盛んに子蔓を伸ばし、うんと速く孫蔓が伸びまくって花を付ける様子が目に浮かぶのである。それにしても、今年はゴボウを植えておいてよかった。ゴボウの味噌漬けがあれば、隼人瓜の粕漬けのない一年もさほど寂しくはなかろうと思うからである。
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