NHKをつぶすか生かすか

N国という珍な政党が出現、何と百万票近い得票で議員がひとり生まれた。「NHKをぶっ壊す」がキャッチコピーだ。どうやら小学校の子供たちが気にいってそう叫んでいるそうな。言葉はやや野卑で、それがために心ある人びとには毛嫌いされているらしい。

聞けば「ぶっ壊す」とはまずNHKを見ない人の権利を守るためにスクランブル化を求める傍ら、視聴料金の収集で暴力団紛いの担当員を動員し、あざとい振る舞いをしているNHKの体質をも責めているのだ。何とも穏やかでない話だが、グループを率いる立花議員が元NHKの人間で、結構中枢にいたことから裏の事情に通じているようで、暴力団云々もまんざら根も葉もない話ではないらしいのだ。

いま語られている話に踊らされる愚は避けて、本稿ではテレビというメディアの実態から掘り起こしてことの本質をえぐり出してみたい。

先ず昨今のテレビ事情だが、けばけばしいコマーシャルと低劣な内容が充満する民放テレビは商売道具に堕しており、本来の情報媒体としてNHKが民放局すべてを尻目に一頭地抜きん出ているのは紛れもない。

とはいえ、今はインターネットという新しいメディアが台頭しており、若者を中心に、情報収集はネットで行いテレビをほとんど見ないという層が増えているという。それは何故か。

簡単に言ってしまえば、テレビが流さない情報をインターネットで得ることができるからである。テレビは公共の電波を使い公共性を求められているために、放送内容に自己規制が強く働く傾向があるためだが、そればかりではない。インターネットユーザーの間では、今までテレビや新聞などのマスメディアと言われてきたものが、いわゆる報道しない自由を活用して世論をミスリードしてきたのではないかという疑惑が高まってきている実態があるからだ。

若者を中心に、フェイクニュースは少ないが肝心な情報を流さないテレビよりも、フェイクニュースのリスクがあっても、テレビが流さない情報も含めていつでもどこでも圧倒的に情報量が多く、インタラクティブなインターネットで情報を得る層が増えていくのは時代の流れというものだろう。

とはいえ、ニュースや公共性の高い情報の提供源として、NHKはぶっ壊すには忍びないというのが私の考えだ。集金手段やら見る見ないの選択肢などは枝葉末節で、NHKを亡きものにせよとは暴論だと思う。

ならば、スクランブル化の話は筋違いだ。これはNHKを見ないという連中のための手段だから、NHKを見るという連中には縁のない話だ。仮にスクランブル化が実現したとしても、NHKをぶっ壊すほどの破壊力になるとは限らない。となれば、これをワンイシュウに選挙に挑み議員をひとり送り込んだN国なる政党のそもそもの意図は何処にあるのか、という問題が浮上する理屈だ。NHKを見たくない人たちの代弁者だと割り切ると、その意図を見誤ることになる。N国という政党は「スクランブル」を隠れ蓑に他に狙いを秘しているように思えてならない。

話の順序として、NHKを見たくない動機を掘り下げてみようか。情報収集はネットで充分でそもそもテレビを見ないから馬鹿にならない金額のNHK視聴料を払いたくない、と云う連中がいる一方、NHKの放送内容に政治的偏向があるから見たくないという向きがある。前者はスクランブル大いに結構と云うだろうが、後者は意外にこれに反対するかも知れない。理由は、偏向云々は兎も角、緊急放送や実況放送、国内外のニュース報道を試聴する割合は高いと思うからだ。

偏向問題について、N国の立花議員によれば、話はNHKの職員に在日が多いなどの論ではなく、経営陣の体質のなせる業だと云う。公共性を謳い中立性を標榜しながら、何処か左翼臭を漂わせるのはそのせいだ、と。何を隠そう私にして、解説番組などでほぼ何の根拠もなくピースピースと囀(さえず)るNHKの立ち位置には違和感以上の不自然さを感じる。だが、偏向などは受け取る側で消化すればいいことで、それを口実にNHKをぶっ壊せとは愚行の極みだ。

だからこう思う。スクランブルとぶっ壊すで参院選で百万票を取り、参院に議員も送り込んだN国には、実は他意があるに違いない。弁舌爽やかな立花議員はいまや例の「みんなの党」の産みの親、渡辺議員と語らい何やら策動しているし、ワンイシュウに拘らぬ風情も見せている。

元来NHKのほぼ中枢にいた同議員には、内側からNHKの建て付けを替える思惑があるのではないか。ぶっ壊すとはそういう意味ではないのか。などなど、N国騒動は意外に面白い後日談が約束されている芝居かも知れない。まあ暫くは舞台の形振りを見届けようか。

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