音読は剣術、忍術なら奥義にあたる

私は英語人を以て任じているが、世には似たような御仁が多かろうとは想像できる。それはそうだろう、己だけが英語の膸(ずい)を吸っているなどとは、到底思わぬ。しかし、だ。しかし、私ほどのこの英語というシロモノと真っ向から立ち向かって、ほぼ自力で膸までに達したものは、さほどはおるまいと思う。なにせ、私は貧乏だった。貧乏という棒を杖に、躙(にじ)り登ってきたのだから、同じ膸でも吸い味が違おうというものだ。

いや、悪い癖だ。横道が過ぎたようだ。

そう、その英語人だが、ある知恵袋の問い掛けで、ひとり英語人を見つけたのだ。こんな質問を寄せられた:

Q 英文読解について。尊敬する英語の先生が熱心に音読を薦めてくれるんですが、どういった効果がどれくらいあるのでしょうか? 半信半疑で勉強に集中できません。誰か教えてください。

A あなたの先生は英語名人かも知れません。音読は数ある方法のなかでもっとも効果的です。私がアメリカで教えられた方法はただ音読するのではなく、文の構造に関わる部分を読む音量を10とすれば、すべての修飾部分(形容詞、形容詞句、副詞、副詞句、それに関係代名詞と関係副詞に導かれている節)を5か6ぐらいで音読するのです。これは three-dimensional (3D) reading といわれ、構文を意識しながら読むという理想的な英文読解法です。その先生によろしくお伝えください。ご参考まで。

私はこの答えを書きながら、この先生はどれほどのご年齢かな、どれほどの英語歴がおありかなどと、「想像の翼を廣げ」たものだ。「ともかく読め」と教える先生はそうはおらぬ。あれこれと、重箱の端を突く輩が多いなか、ただひたすら読めとはなかなか言えない科白だ。

だが、実はこれが英語征服の捷径(しょうけい)なのだ。音読は剣術、忍術なら奧義にあたる。ただ、私の奧義はやや、さらに一歩登らねば達せぬ。私は音読はゆっくりと、音楽ならアンダンテを越えてはならぬ。ただし、戻ってはならぬ。戻ってはならぬからこそ、アンダンテでなければならぬ。佳き読み物ならば、ゆっくりと読んでこそ、味わいが深まる道理だから。

なぜアンダンテか。これはひたすら構文を「噛み砕きながら読む」からじゃ。修飾部分を抑えながら、構文を味わい噛み砕きながら、後戻りせずに読みすすむ、これが音読の奧義だ。

この質問の御仁、今はさぞ一角の英語人になられておろうか。そうだ、剣術の話のついでに、私は先ごろ一冊の啓蒙書をKindle本で世に出した。「グローバルエイジの二刀流翻訳術」という大仰なタイトルだが、要は翻訳を目指す若者たちのお役に立とうと思っての一冊だ。ご縁あれば、お読みいただけると嬉しい。

御機嫌よう。

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