真夏の白昼夢(新聞社の取材)

ひと昔前の映画好きなら、ロバート・テーラー扮する「アイヴァンホー」を思い浮かべる騎乗の武人は、中世にランサーと呼ばれた槍使いの騎士だ。

面白いことに昨今、その槍使いが今風の仕事人の総称となって流布している。ネット上で仕事を仲介する組織「ランサーズ」の傘下で働くフリーランサーたちだ。何を隠そう私もその一人で、折々に翻訳や書きものを取り込んで働いている。実は84歳は斯界(しかい)最長老らしく、それをフィーチュアしようとてか、ランサーズを介して経済紙の雄「日本経済新聞」から取材を申し込まれ、前日の昼過ぎ、T珈琲店に愚妻を伴って出向いた。

最長老云々はこれが初めてではなく、2年ほど前、ときのベストセラー「ライフシフト:100年時代の人生戦略」に肖(あやか)ってランサーズが企画した「働き方」セミナーに、老いてなお盛んなランサーという触れ込みで一席語った経緯があり、これが尾を引いて後日共同通信に取材を受けた。ネットに立ち込む傘寿超は珍獣か、と自嘲もしたものだった。

だが、今日の日経の取材はどうやら色合いが違うなと感じた。昨今の働き方改革指向はお上主導の潮流の様で、流石は日経、その辺りに棹差す意味ありげな企画と見たのである。処は北上尾のT珈琲、お気に入りの寛ぎ場だ。日頃Mac Bookを持ち込んで雑文も書く、気の置けない珈琲店だ。

時間の余裕を見て出向いたはずが迂闊だった。取材担当のIさんに店の鳥羽口で出迎えられた。すでに席を設定されていたらしかったが、無理を通して常日頃の定席にお出で頂く。ランサーズのスタッフと日経のカメラマンが合流して挨拶となる。Iさんは隙のない、切れそうな女性だ。後刻上智だろうと訊けば中央だという、流石に場慣れした才媛である。ランサーズのスタッフは既知のU嬢ではなく、急遽代役で来られたK嬢、これも日頃巷に見る女性とは類(たぐい)を異にする一皮むけた女性だ。

ちなみに、例によって私の名刺がいっときの話題になった。熊谷染めの型抜き名刺だ。透けて見える絵柄がなかなか珍で、珍獣の持ち物にはもってこいの品物だ。

さて、取材は事前に貰っていた項目を順不同に彷徨って、大いに賑わった。Iさんの訊きようが垢抜けていたからで、私の興も頗る乗ったこともある。問わず語りに今日に至るあれこれを語り尽くした。日本人のいないアイダホを選んだ経緯は、どうやら大いに場を沸かせた。

取材を受けながら感心したことがある。Iさんが私の目を抑えながらペンを走らせる技が冴え渡っていたことだ。速記でもないだろうに、此方の目を見ながら、表情も豊かに浮かべながら手が動いている。語り口が走り気味になっても、ペンは相応に走っていた。これは感動した。

取材の結果は、後日Web版日経紙上でご覧いただくとしよう。9月中旬ということだから、敬老特集か?1時間の予定は3時間近くになった。台湾の話や私のHPばなしで花が咲いたこともあるが、髭を奮わせて作務衣の老珍獣が語る話が、ほどほどに聴くに堪えるものだったのかと、ささやかな自負も覚えたいっときだった。

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