WHAT’S MY LINE?

英語が上手くなるには、上達するにはこうすればいい、という話が星の数ほどある。ほどほどに英語を操る人は様々に知恵をひけらかして、藁に縋(すが)りたいひとを誘う。あれこれ試しても上手く行かない、思うようにならない。英語が苦手の日本人は次から次へ、あれこれ手立てを求めて「英語征服の旅」を彷徨(さまよ)うというような案配で、この世界、なかなか妙な活気がある。

その活気に肖(あやか)って、当欄でもひょんな知恵をひけらかしてみようと思うが、如何?但し、これは思いつきからではなく、しっかりした経験則から絞り出した「金の知恵」だから、大真面目で聞いていただきたい。

テレビ草創期のアメリカで大評判だった番組がある。WHAT’S MY LINE? という視聴者参加型のguessing gameで1952, 53, 58年と3回もエミー賞を、1962年にはベストテレビ賞を浚(さら)った人気番組だった。流石はテレビの本家アメリカ、番組過去ログがふんだんに残っており、年配者には昔を懐かしむ格好なネタ、若者には何とも罪のない無邪気な昔のテレビのサンプルとして現在もYouTubeで持て囃されている。実はこれが宝の山で、英語が不器用な日本人がひそかに英語を覚えるためのまたとない教材なのだ。番組名はWHAT’S MY LINE?。本稿ではこれを取り上げて、ぜひ英語講釈の読者に玩味していただきたいのだ。

筆者は1950年代半ば、エルヴィス・プレスリーが世に出た頃に渡米した。例のエド・サリヴァン・ショウに、エルビスが尻を振って初お目見えした番組をリアルタイムで見ている。テレビ全盛時代のアメリカだ。渡米しての若者が暫くテレビ漬けになったのは当然だ。テレビから有無を言わせず英語を刷り込まれたのもごく自然なことだった。

さて、欠かさず見ていたのがこのWHAT’S MY LINE?だった。Lineとは仕事、職業、生業(なりわい)のことで、パネリストたちが出演者の職業を言い当てるクイズ番組だ。あらかじめ視聴者には答えが明かされており、それが意想外の職業だったりするのも趣向だ。4人のパネリストが順に問いただし、Noの数だけ出演者が幾許(いくばく)かの賞金を貰える仕組みだ。このクイズ番組が諸君の英語征服の旅の格好な杖になることにふと気づき、早速お手引きしようと思い立った次第だ。

面白いのはクイズの仕掛けではなく、視聴者が知っている出演者の仕事をパネリストが根掘り葉掘り聞き糾(ただ)す遣り取りが、滅法効果的な英語の勉強になるのだ。マンネリ化した質問もあるが、なかなか意表を衝く巧みな言葉のアヤもあって、毎週繰り返し見ていると不思議な臨場感を覚えて、俺ならこう聞いてみようなどと、番組にのめりこむようになったものだ。

毎週ひとりはミステリーゲストが来て、パネリストたちは目隠しをして誰だかを当てるという趣向もある。これには時の有名人や映画スターなどが登場、ゲストが声色を駆使して逃げ回る様子に場内が沸く。その沸き具合を手掛かりに質問が左右するなども愉快だ。パネリストはラウンドハウスのBennett Cerf、舞台女優のArlene Francis、コラムニストのDorothy Kilgarenが常連で、週ごとにゲストパネリストが加わる四人、司会がJohn Daleyだ。

ミソは才走った三人の常連パネリストたちの軽妙な語り口だ。Cerfといえば辞書で知られるランダムハウスの社長で物識り、Francisは当代の舞台女優で口八丁手八丁の才女、Kilgarenはメディア界を知り尽くすこれも才女とくれば、繰り出すひっかけ質問は多彩かつ巧妙で、Noを避けるための言葉の手練手管は見事。英語の勉強になるといっても、通り一遍の英語でなく「考えた英語」のオンパレードだから、慣れれば賢い英語が身につくといういうわけだ。

常連の一人だったスティーヴ・アレンが、結婚指輪の職人がチャレンジャーに「身に付ける」というから勘違い、こんなやり取りで満場を沸かせたのが懐かしい:

Worn?

Yes.

It’s worn. Would it be something you might see in a casual surrounding like at the beach or something..?

Yes.

Could it be worn at such…?

Yes.

Can be worn at the beach, umm….Would it be alright to wear one of these and nothing else…?

会話のあやから喋り言葉の蘊蓄を愉しむのだが、これが英語を学ぶ身にはまたとない道場なのだ。

WHAT’S MY LINE?の過去ログはyoutube上にたくさんある。1950年2月に始まったこの番組、お薦めしたいのは1955-57年の油の載りきったシリーズだ。

これはある日の番組のそのまたごく一部を覗いたに過ぎない。シリーズと通して見て貰うと、随所に会話の妙が見つかる。Noが1個で5ドル、遂に見破れずに50ドル持って帰るチャレンジャーも結構いる。何とかNoを避けようと言葉を操るパネリストの奮闘が何とも痛快だ。

生半可な英語コースよりどれほど効果的か、ぜひ試されて結果をご報告いただきたい。兼ねての筆者の持論だが、英語は「学ぶ」ものではない。英語はひたすら慣れることで身につく有機体だ。慣れて覚えた英語は忘れないものだ。筆者は本年取って84歳、WHAT’S MY LINE?どころか外信はすべて原語、寝言も英語の世界だ。すべて1955−65年に慣れ親しんだ有機的な英語が半世紀を超えて活性を保っている。騙されたと思ってWHAT’S MY LINE?の世界に慣れ親しんで見ては如何?

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