老木樵の意気込み

わが庵には手狭な庭が持て余す大木が一本、古色蒼然と立ってゐる。桜の古木だ。なかなかの銘木で、春には佳い花を咲かせて50年、楽しみでこそあれ頭痛の種ではさらさらなかったのだが、この桜の梢が近くを走る電線に触れるとかで、枝を払うか幹を切るかの騒動が持ち上がった。

何しろ径50センチで樹高8-9メートルのどっしりした桜だ。電線への障りを除くなら梢の枝葉を払へばよからう、いや先を思へば幹を縮めるべき云々。八十路の身では丈余の幹には登れず、親戚筋の若者を頼めば命が惜しいと後づさり、ほとほと困った果ての深慮の一策で梯子に登らず背丈ほどで直に切り倒すことに臍を固めた。

この桜、幹が目ほどの高さでY状に分かれる。今日は久し振りの快晴とて、まず一方の幹を倒しに掛かる。Yの脚辺りに刻みを入れ、方向付けのV状の切り込みを入れる。流石は桜、木質が堅く手強(ごわ)い。然もありなん、と用意しておいたチェインソーが大いに活躍、15分ほどで楔形の切り込み部分を抜き取った。

ぜひ任せてと云ふ愚妻の意気込みにチェインソーを委ね、切り込みの斜め上部、幹の反対側に溝を切り込む。徐々にチェインソーを回す。二度三度と切り込む。あと四、五度は掛かろうと思った矢先に幹が突如倒れ落ちた。見事V字切り込みの方向に落下し、落ちる咄嗟にチェインソーを引いたのが幸いして事なきを得た。桑原桑原。

こうしてY状の一本は無事切り落とした。事前の想定通りにことが運んだことで、兎も角もひと安心だが、本番は残った主幹だ。上部の枝葉を落としてからがよからう、といふ当初の心積もりは周囲の難色で頓挫、ならば枝葉ごと一発で、と始めた木樵作業だ。手前の一本を巧く落とせた余勢を駆って数日後二本目を倒す目論見だ。その吉左右(きっそう)はまた後稿でお知らせする。

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