生前退位考

今上陛下の「お言葉」以来、生前やら退位やら、巷が喧(かまびす)しいことじゃ。此処を先途と的外れの議論が便乗するから、肝心の的が見失われて射るものがない。これでは「有識者」たちとて的なき弓を引いてゐるに過ぎないのじゃ。

その有識者たちの知見はさておき、この生前退位の問題について、わしの思ふところを暫時お聞きくだされ。年の初めの世迷い言じゃ。

どこかへ失せた「的」とは一体何のことじゃ。それは、何を隠さう歴史と伝統、日本が依って立つ「魂柱」のことじゃ。ややこしいことを言ふな、と抗う者がゐれば、その者はものの理(ことわり)を知らぬ輩と断じてよからう。よいかな、男はいち物を備えるが故に男たり、女は生命を産む器あったればこそ女たるに似て、日本は日本たるべく具えておくべき「もの」があるのじゃ。お分かりかな?

ならば、的を射た話をさせていただかうか。わが日本には二千数百年を経た歴史があり、それを支えてきた心の柱があるのじゃ。わしはこれをバイオリンならぬ魂柱とよぼうか。日本人は、自然を敬い、自然に溶け込み、自然に従って生きる道を選び、その営みを天皇家に一手にお任せしてきたのじゃ。日本人は、天皇家を謂わば自分たちの総代として選び、代々の天皇家はわれらの身代わりとして、自然を敬い、自然に祈り、自然の恵みに謝する思ひを代弁されてこられたのだと思いなされ。

それを神事と言わうと行事と言わうと、実態にさしたる意味はない。ひたすら自然への思ひを言動に示しての「行為」であり、それは二千数百年余も長い間、われわれ日本人が天皇家に託して、絶えることなく支えてきた伝統なのじゃ。それがこの国の歴史そのものであり、終始一貫、変わることなく今日に至っておるのじゃ。

ここで、はっきりしておきたいことが、ひとつある。他でもない、われわれ日本国民と天皇家の繋がりのことじゃ。ざっくり言えば、昔なら村人と村の長、つまり庄屋どの、寺なら檀家一同とご住職さまの繋がりそのものじゃ。日本人の宗教観は神代の昔から自然崇拝、そこに八百万の神を観て、長たる天皇家に委ねてこれを祭りつつ、二千数百年を生きてきたのじゃ。

折に天皇を神格化し奉ったのも、所詮は自然に住まひする神々を慰める人格を神に例へた方便じゃ。現人神の概念は、そこに根ざす手立てに過ぎぬと思へば、改めての人間宣言などになんの意味があらうや。

さて、話しは突如核心に触れる。天皇を国民の「象徴」と唱へるごときは愚の骨頂なのじゃ。この言葉、戦後のどさくさに紛れて某米人が思いつきに発したものじゃて、深い意味など爪の先もありはせぬ。ましてや、この言葉には村の長が村人の自然への思ひを代弁するなどの感覚は、毛ほどもないのじゃ。

横道に逸れるが、退位話に便乗する輩が憲法がらみで「象徴」を語るのは、まさに噴飯ものじゃ。憲法をめぐるわしの考へは他日にゆずるが、いまお話ししておる生前退位に関わる範囲で、一言申しておきたいことがあるのじゃ。

今上のお話しなされた枠内で言へば、「象徴として公務遂行の責務が果たせぬ」との切り口から、その理由としてご健康を語り、高齢の不便をお話しされておられるのじゃ。

そこで、わしに一つの考へがある。「象徴」なる得体の知れない実体を天皇ご自身に絞るところに問題があり、わしは公務なる行事を執り行う「象徴=天皇」を、今上お一人に限るのではなく、広く天皇家に広げればよかろうと思ふのじゃ。天皇のご健康に無理があれば、臨機応変に東宮、秋篠宮が代行すれば済むことじゃから。

ここが核心じゃ。天皇家は二千数百年余にもわたり民に成り代わって自然に棲み分けている八百万の神々を敬ってこられた。よろしいかな、天皇家には未来永劫この任をお果たしいただくのじゃ。天皇たる身は自らの生命を全うしつつ、これをお果たしいただく。伏して病の床にあれば、東宮、秋篠宮に「公務」を任せ、自らは天皇位を退かずに御代を全うしていただくのじゃ。これは今上に限らず、将来に亘って天皇に負ふていただく務めとすべきじゃ。

わしの結論はこうじゃ。「象徴」に拘る輩は埒外として、世に言ふ「公務」なる行事を執り行う当事者を天皇から天皇家へと拡大定義すべく、該当する法規を改めるのじゃ。今上は東宮、秋篠宮を従える天皇家の長じゃ。いたずらに健康を案じることなく、高齢による不便も十分に斟酌しながら、古来の伝統に準じて天皇位を天寿までお守りいただくことこそ、日本の日本たる所以だとわしは思うのじゃが、如何かな。

御機嫌よう。

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