前口上

歌は世に連れと云ふが、それはほんとうだ。昔のあれこれを思ひ出す縁(よすが)に、それは誰かの何なにと云ふのもあるにはあるが、その時々に巷に流れてゐた戯れ唄の節々もあり、何かの切っ掛けでそれが耳元に聞こへてくることがある。

節回しが上手いと褒められて、私は幼いころから大人の戯れ唄を物真似てゐた。わけも分からぬまま真似ながら、どこか小粋な味はいを楽しんでゐた節がある。だから、出来事に絡んでその時の流行り唄もいまでも覚えてゐる。ここで思ひ立って去りし年月を振り返るなら、ままよ、習わず覚えた戯れ唄を語りに添えて唄ってみやうか。

傘寿も半ばを過ぎて、やうやく老境を覚える昨今、幸い巷のカラオケなる文化に化せて昔の唄を口ずさむことが多くなり、気無しか喉慣れもしてゐる。細やかな私史に、お耳触りを承知で傘寿越えのしわがれ声で唄ひ重ねてみやうと云ふ思惑でもある。

いやさて、どうなることやら分からぬが、そこは老爺の我儘と、どうか看過願ひたい。綴る言葉は書き殴りながら、綴る内容はごく真っ当でありのまま、読まれる御仁によっては処どころ御意に沿わぬこともあらうが、それもそれ、五入すれば最早卆寿翁の言い草、只管(ひたすら)ご寛恕乞ふ次第である。

終わりに、わが愛してやまぬ抒情の旋律をおずおずと唄ひ添へて前口上を括らせていただく。

♪赤とんぼ

2021年9月12日録音

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