たおやかな女性(ひと)

先日、友人と飛鳥山にある渋沢資料館を訪れた。渋沢栄一は、晩年飛鳥山に住んでいたという。深谷の生家や記念館には行ったけれど、飛鳥山の資料館は初めてだった。

今回は、「孫から見た渋沢栄一 鮫島純子さんが語る”おじいさま”」という企画展が目当てである。渋沢栄一のお孫さんとしてテレビでも拝見したことのある鮫島純子(すみこ)さんは、今年1月に101才でお亡くなりになったという。偉大なお爺様との思い出が、暖かみのある水彩画と達筆な手書きの文章で紹介されていて、とてもほほえましかった。栄一翁と楽しく散歩する絵があったり、栄一翁の通夜では、集まった10人ほどの孫たちが栄一翁が眠る布団を囲んで元気に遊んでいる絵があったり。

鮫島純子さんの水彩画は、誠実な人が訥々と話すような風合いで、気持ちがじんわりと伝わってくる。

展示には、戦前の生活を描いた水彩画もあった。漬け物づくり、布団の手入れ、鋳掛け屋さんなどなど。もし梟翁がこの場に一緒にいたら、思い出話が尽きなかっただろうなあ、と思うものばかりだった。それらは「あのころ、今、これから」という本の一部だと知ったので、さっそく手に入れて読んでみた。

鮫島純子さんが病気療養中のご主人と話しながら描きためたものを、本にまとめたという。最初に”ガングロ”の女の子たちなど、バブルの頃の風俗が描かれていてちょっと驚いた。でも、添えられたコメントは意外に優しい。それから、今はほとんど残っていない戦前の生活の様子が、訥々とした絵になってたくさん紹介されていく。昔は今ほど便利ではなかったけれど、丁寧に、物を大事に暮らしていたということがよくわかる。丁寧に描かれた絵には、写真以上のリアリティが感じられるのだなぁ、と思った。永六輔との対談もあり、海老名香葉子、小沢昭一など、懐かしい人たちのエッセイも挟まれていて楽しい。

そして「あとがき」の見開きを読む。鮫島純子さんは渋沢栄一の孫だから苦労知らずのお嬢様かと思っていたけれど、戦中に出産したり舅姑と戦後の苦労を共にしたりと、それなりに困難を乗り越えた人生だったと知って少し驚いた。それでも人生のすべてに感謝する境地がしみじみと綴られており、末尾の鮫島純子さんがお辞儀をする絵に、胸がキュンとして涙があふれた。

この本は純子さんの遺言であり、人生の賛歌なのだ。鮫島純子さん、こんな素敵な本を残してくださって、本当にありがとうございました。

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