ほっぺたが落ちるほど難しい

風変はりな表題で、読者の訝りもさぞやと思ふが、それはそれ、この抄文をお読みいただいてのお慰み。まずは読み進まれよ。

ネットのSNSにLinkedInと云ふものがあるのをご承知かどうか。筆者はある動機でここに入り込んだ。それと云ふのは、ノルウエイ時代の知己で早世した某人と同姓で、これがレアな姓名だけにあるいは彼の縁者かと、ある人物に問ひ質した経緯がある。それが何とその知己の息子と知れて暫し交信があった。

そのご縁はそのまま生きてはゐるが、時の経過で交信は間遠になり、いつかな遠ざかってゐた。折々に興味に任せてコメントなどを読み齧(かじ)ってゐたある日、某インド人が日本語の面白さを語る書き込みをちらと見た。「手抜かりない」などは妙(たえ)なる言ひ方だなどと披露しながら、話が相撲に飛び、横綱を「よこずな」とふり仮名したのを見て立ち止まった。「ずな」は「づな」で先ずは一言あるべしと、二言三言曰くを説明して終わりに一言、

Nihongo is deliciously tricky.

だと付言してコメントを閉じたのだ。捻って逆和訳すれば、「ほっぺたが落ちるほど難しい」とでも言はうか。何と云ふことはない、日本語の厄介な、それも味のある難しさをさらっと述べたつもりで、ほかに他意はなかった。

やがて当のインド人からは、編者の知恵を頂戴して感謝してゐるとのコメントがあって、記事のその箇所が訂正されてゐた。それはそれで、さもありなんと納得。面白いのはその後の経緯である。

二つ三つのいいねの後に、何と英語の本場イギリスの然るべき書き手が、筆者の言葉遣いを愛でる賛辞を寄せて来たのである。曰く、

“Deliciously tricky” – what a wonderfully accurate phrase to describe the Japanese language.

「ほっぺたが落ちるほど難しいとは、なんと絶妙な言い回しではないか!」と言ふお褒めの言葉だ。いや、恐縮。なにせ英人からの一言だけに、日頃言葉に気を遣ふ身としてそこはかとなく嬉しい。これを読んでだらう、某ご婦人からこんな一言も。

Even though they do come up in business settings, I never stopped to think about the origin of these phrases. Thank you for the tips and explanation. Wye Shimamura, a.k.a. Nathan Shiga is right, the Japanese language is deliciously tricky.

前半は日本語の語源の面白さに触れ、最後に「Wye Shimamura, a.k.a. Nathan Shiga(筆者のことだが)の言われることはその通りで、日本語は実にほっぺたが落ちるほど難しい」

と結んでいる。いや、もの書き冥利に尽きる。

日本語の豊かさをどう英語に織り込めるかこそが翻訳の冥利だから、筆者は心して和英訳を本意にしてをる。ほっぺた云々の言ひ回しは身勝手極まるが、英人を唸らせるなら満更でもなかろうとにんまり。これを潮(しお)に語意を掘り中(あ)てんとする筆者の翻訳仕事は、ほっぺたが落ちるほど難しいが、さらに熱を帯びることにならう。快哉。

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