年寄りの悲哀

高齢者の運転事故が日々どこかで起こっておる。八十三歳のわしの耳にも痛い話で、正直ひとごとならぬ「社会現象」じゃ。認知症の副産物か人の劣化か、片や福祉の恵みに預かりながら年寄りたちはいま、反社会的な言動を責められておる。それは一部の年寄りだと嘯(うそぶ)くなかれ、年の功とはなんのことだと言われそうな出来事が現に起きておる。

二日前の夜のことじゃ。福岡市のとある店で傘寿前の老爺が十一歳の女の子から金を脅し取ったという、前代未聞の事件があったのじゃ。冨松靖とやら七十九歳の無職の仕業だというが、なんと「お金ちょうだい」とせがみ,イヤだと逃げる少女から無理矢理に奪ったという。千円じゃったそうな。

泣いて帰った女の子は母親に知らせる、母親は即警察へ。この老爺、間の抜けた話じゃがその店にまたきたという。女の子の話と服装やらが一致して逮捕された。どういうことだと聞かれてこの老爺、言うに事欠いて「お金はもらったが脅しとってはいない」と。猿にも劣る言葉遣いじゃ。聞かれてたしかに脅し盗りました、恐れいりましたと言えばいいとは言わぬが、浅はかな言い逃れをいう神経が無性に腹立たしい。傘寿に拘るわけではないが、それを三歳越えたわしとして、この愚鈍きわまる人間を同期のなにやらと思いたくないのじゃ。

そうか、これは認知じゃ認知症患者じゃと一蹴すればよかろうと納得しながら、わしの深層心理に蟠(わだかま)るものがあるのじゃ。曰く言い難い感覚だが、老いの悲哀とでも言おうか、誰でも経年しての劣化はあるものじゃ。それがどのような形態で具現化するか、一概には言えぬものじゃろう。この老爺の来歴は知らぬ。知らぬが、わしはこんどの出来事が彼に根っからの盗癖があってのことで、経年劣化の現象でないことを祈りたい。間違っても、この出来事を高齢者の運転事故と同列に扱って欲しくないのじゃ。それにしても金は怖い。

「一銭を笑う者は一銭に泣く、いつまでもあると思うな親と金」、わが亡父の月給袋に刷り込んであった警句だ。言い得て妙である。

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