野田の親父の怪気炎

久しぶりの投稿には理由がある。

先立って予定されていた人工膝関節手術のため、5月19日から入院しているのだ。幸い手術は成功、術後の経過も上々である。

病室のベッドにMacBook、iPad、Walkmanをはべらせ、書き物、読み物、聴き物に不足はない。

さて、同室の膝治療の仲間に新井某という老人がいる。同じ日ほぼ同じ時刻に施療したという珍な縁で何かと近しく擦り寄ってくる。はるばる野田から苑田会病院に来たという気のおけないご仁だ。語り口がシャキッとしていると思えば、ひとまわり違う亥年だという。馬ならぬ猪が合うわけだ。

聞けば女房どのはこれに反対で、納得のいかぬまま隠れ電話を掛けて入院したという。いや、なかなかの猪だ。なかなかできない決断だと褒めたら、そこは男だからと胸を張った。その辺りも猪っぽい。立派な髭だというから、せめて男だからと云ったら感に堪えぬ風情、なかなかそこまではいかないと頷く。

新井老とは珍なところで意気投合した。手術後にベッド上で用便させられることへの抵抗感だ。老曰く、これだけは死んでも嫌だ、這ってでも厠へ行くと突っ張る。將にその通りで男の名誉に関わると応じれば、わが意を得たりと老。実は手術の翌日、その状況が発生したのだ。看護婦四人を煩わし車椅子で「這って」いった。折から便運も悪く騒動がから騒ぎになった。同じ日、ほぼ同じ時刻に新井老は杖で自力用便を果たしたという。こっちの話を聞いて気の毒気に曰く「分かるなあ、先生の気持ち・・・」

髭からして仕事はどんなことをと聞くから、不束ながら書き物や翻訳をしていると話したら、老はこっちを先生呼ばわり始めた。歳が一回り違うこともあって、同じ干支の先輩が頑張っている風情にいたく感じ入ったらしい。そちらも歳とは思えぬ闊達さだと応じるや話は働き甲斐からQOLに広がった。男だからね、自分で歩かにゃならん、と老。ギシギシ痛む膝が邪魔になって気力が萎える、三桁まで先が長いから人工膝は究極かつ最善の選択だったと応じれば、わが意を得たりと新井老、この病院を選んだのもお互い文殊の知恵だったわけだと鼻をピクつかせる。

さらに聞けば、新井老の膝手術は両膝全取っ替えだという。思い切ってさぞ気持ちよかろうと云ったら、内側だけの部分関節だと後ろ髪を引かれて辛かろうに、ときた。互いに異物を取り込んで神経を病んでいるらしい。ある段階で部分関節に決めたのだが、どうせ人工関節なら全取っ替えもありかと思っていたから、老の気持ちはよく分かる。部分に決めた裏には身体髪膚の心理があったわけで、膝が落ち着いた頃の様子で吉左右(きっそう)がきまる。

リアルタイムの話、リハビリは階段訓練を残すのみになった。まともなら四日よければ二日でさしもの膝手術が大団円になる。時ならぬ競猪レース、さてどちらが差し切るか。「部分」の手前十中八九鼻の差で抜き去れると思うが、さすが野田の野猪のこと左はさせじと突っ込んでくるだろう。どちらが差すにせよ、一回り違いの猪二頭が相次いで念願の人工膝関節置換を成し遂げる。いや、悦ばしい限りである。

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