目覚めたか、メディア

「はじめや」という名の駄菓子屋をご存知か?店の真ん中にテーブルがあって、いつもお客の子供たちが何人か笑顔で集(たか)っている駄菓子屋、七十歳がらみの店主「おばちゃん」が、これも溢れるような笑顔で子供たちを見守っておる、そんな駄菓子屋を知っておられるか?

これは、山形のある町、なんともレトロ風情が却(かえ)って目を惹く子供相手の駄菓子屋の話。いや、わしが掘り起こしてきた話題じゃなく、昨日NHKで放送されたニュースがネタの話で、筋書きの面白さとは別に、ある理由でご紹介しようと思い立ったのじゃが、さすが老梟とお褒めいただけるか、それこそ老害の類(たぐい)とお叱りを受けるか、それを承知の思いつきなのじゃ。

まずは、件(くだん)の駄菓子屋の来歴をお話ししようか。このおばちゃん、山川昭子さんは子育て時代の思案としてまず日用品の店を構えておられた。子供たちのために安い駄菓子なども店の隅に置き、テーブルを椅子で囲んで設(しつら)えた。やがて、孫のような子供たちが三々五々、駄菓子を買ってはおばちゃんの設えたテーブルに張り付くようになったのじゃ。

いいぞとおばちゃんはほくそ笑んだという。「この子たちの憩いの場になるかも。」おばちゃんはそう考えたそうじゃ。生来の子供好き、自分の娘を育てがてらおばちゃんはお客の子供たちも育てる喜びを感じるようになった、とか。「店がそんな子供たちの憩う場になっているという思いから、商売は二の次と思うようになったのね」とおばちゃん。

そんな年月がなんと五十年、「はじめや」は子供たちで繁盛して、何世代かの子供たちが店とテーブルから育っていきおった。小学校から中学、高校へ、仕事について働き始める子もおった。店のお客の子供たちの育ち上がる背中を見送りながら、おばちゃんも今年七十四歳、おばあちゃんになるまで歳を重ねた。小学六年の加藤愛結(あゆ)ちゃんは十二歳、「おばちゃんは話しやすいの。お菓子に囲まれて楽しい」という。

ある日、子供たちの帰ったあとの夕方六時、思わぬお客がおばちゃんを訪ねてきた。澤田雄介君じゃ。専門学校を卒業して山形を離れ、今は札幌で働いているという。おばちゃんの「はじめや」に物心つく前から通っていた雄介君、小学生の頃はここに入り浸っておったという。「今日は彼女を親に会わせにきた」と雄介君。緊張をほぐすためにおばちゃんに会いに来たのだ、と。「奥さん大事にするよな。変なことしたらおばちゃんが往復びんた食わすど」とおばちゃん。雄介君は、「おばちゃんに会うと元気をもらえます。背中をおされましたね」と。

「はじめや」は間もなく五十年の節目だ。歳も歳だからそろそろ店を畳もうか、と思っていた矢先、つい先日、成人式帰りの若者たちが店の前に並び、一斉に最敬礼、ひとりが見事な花束を差し出して「おばちゃん、お礼の花束です!」「なんと…まあ、私が上げなきゃ…いけねえのに..」と、おばちゃんは嬉し涙に咽(む)せた。これが「はじめや」の話。胸に迫るといおうか、微笑ましいといおうか、なんともいい話しじゃ。こういう話しはいつ聴いても清々しいもので、浮かぬ気持ちを救ってさえくれる。
(参照:http://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2018/01/0112.html)

さて、この話をご紹介してお褒めいただけるやら、お叱りを受けるやら、ずかっと本題に入らせていただこうか。ご記憶だろうか、旧年末に本欄で「目覚めよ、メディア」という一筆をお読み頂いたが、そこでわしは「テレビのニュース番組や新聞の社会面は暗いニュースに満たされ、心温まる話しなどは影すらもない」として、「…善き行いは失せたのじゃろうか、あっても話題にもならぬほどに、ひとの心が荒(すさ)んでしまったのじゃろうか?」と問うた。そしてメディアに訴えた。「メディアよ、心ある若きジャーナリストを巷に撒いて胸詰まる美談を探させ、いかにも猟奇味漂うテレビ画面に、一つ二つなりとも清涼剤を、いや 解毒剤を注ぎ込んで下され。」

思い過ごしかも知れぬが、このメディアは本欄を見かけ窃かに「はじめや」を知り、この話を綴ったのじゃなかろうか?梟さんよそれは甘いぞとの耳打ちが聞こえる。いや、そうじゃろう。大いなる思い過ごしじゃろうが、それと知りつつわしは「はじめや」の話しをお耳に入れる気になったのじゃ。近ごろ珍しい心打つ話じゃから、このメディアは放送する気になったのか、そうじゃ、わしの「目覚めよ…」が引き金になったのかも知れん、と…。お人好し?

お人好しでよい。それでよいのじゃ。「はじめや」の話を見聞きして心打たれたひとは多かったじゃろう。剣呑(けんのん)な世の中、裏に隠れたかくも純朴な物語を掘り起こしてくれたこのメディアに、このお人好しの梟は心から感謝したいのじゃ。そしてひと言、こんな物語がもっと多く人の目に触れれば、さぞやこの世は生きるに足る場になろうから、「もうひと腰、入れて欲しい」と、いまや目覚めた(はずの)メディアに懇願をしたいのじゃ。

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