英語と取り組む(山貞のこと)

ちょっと気の利いた本屋へ行けば英語の参考書は大抵揃ってゐる。揃ってゐると云ふより溢れてゐると云ったはうがいい。腰巻き(帯のことですぞ)を見れば、売り文句が並んでゐて選ぶのに困る。やうやく一冊選んでも、それがズバリ欲しかった一冊だったことはめったにないものだ。

戦後、英語ブームであれこれ学習書が出たが、大方は日常に英語で苦労しないやうに、とのユチリティー本が多く、学生向けの参考書には新味がなく伝統的なものが珍重されてゐた。ご存知、「英語の神様」斎藤秀三郎の弟子筋に当たる山崎貞と云ふ、これも英語にかけては神様扱ひされる人が二冊の「定番」を書き遺してくれた。この二冊が、なんと、重版を重ね復刻までされて現代に生き残ってゐるのだ。今日はその話を聞いていただく。

話のマクラに、この師弟の話を少しさせていただかう。斎藤秀三郎は研究社の辞書で知られてゐるが、正則英語学校という英語専門の学校を創設したことでも知られ、Practical English Grammarといふ名著がある。ここで学んだのが山崎貞で、先生の名著を普及版にして焼き直して書いたのが有名な「自修英文典」だ。

山崎貞(やまさき てい)。半世紀余の英語生活の取っ掛かりで、私はこの人に滅法お世話になった。英語への目を開いてもらった恩人でさえある。明治の人だ、もちろん著書以外の接点はない。山貞と愛称され、いまでもそれが生きてゐることに、云ひ知れぬ感慨を覚える。

山貞には初心者用に「ABCの読み方から」といふ、自分の独習時代の体験を織り込んだ名著もある。噛んで含めるような段取りで、完全に独習者向けに作られてゐる。

その山貞が残した天下の名著が二冊ある。

「自修英文典」(1913) 後に「新自修英文典」に。


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「公式応用英文解釈研究」(1912) 後に「新々英文解釈研究」に。愛称「新々」。


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日本でどう英語が学習されてきたか、を語れば長くなる。ほかにも草分けの英語学習者がそれぞれ著作を残してゐて、語れば一場の物語になるが、それは別な機会に譲らう。

さて、この二冊が英語学習参考書の定番としていまも生きてゐるには相応の理由がある。どちらも英語を総体的に分析してはゐるが、ポイントはそこで取り上げる英文例の格調の高さ、ケレン味のない解釈分析手法、全体のプレゼンの品格だろう。レイアウトがいい。段取りに隙がない。真正面から英語に立ち向かう学生には、清々しくさえある「道場」だ。

いちいち内容について触れる紙幅はない。半世紀余を英語で過ごし、こと英語では額に皺を寄せる悩みもない今、徒然(つれづれ)に「新々」のどこかを開いては思ひ出に耽る。

最後に英語学習者の諸君にひとこと。いま本屋に溢れる英語参考書の著者には何の恨みもないが、もし英語と一生付き合ふつもりの諸君、迷ふことはない、昨日今日の本は避けよ、山貞のどちらか一冊、いや、できれば二冊を座右に置かれよ。長じて、必ずやよかったと思はれるはずだ。

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