ウォーキング・デクショナリー

娘とのたわいない昔話で、「あそこにまだ観覧車があるよ。」と話した時、観覧車を英語で何というのかを思い出せずに愕然とした。梟翁は観覧車をみるといつも「観覧車は英語で何というかわかるか?」という英語クイズを出し、わからないと「◯◯だよ。」と教えてくれた。観覧車を見る度に繰り返し聞いてくるので、さすがに5回目あたりで「あ、◯◯!」と言えるようになっていた。それをとんと忘れてしまったのだ。

なかなか思い出せない私はついに辞書で調べた。観覧車はFerris wheel。そうだった。答えはわかったけれど、悲しかった。

ウォーキング・ディクショナリー、いわゆる”生き字引”だった梟翁。問わず語りにこれは英語で◯◯と教えてくれた。何度も何度も。英語を身につけるには、現場で出会ったときにすかさずそれを何というのかを調べて覚えるといい。でも一度で覚えられることは少なくて、2度3度と同じ状況を経験してやっと身につくんだよ、というのが持論だった。

一番思い出深い単語がリスだった。リスは squirrel なのだけれど、この発音が難しい。私が覚えたつもりで「 squirrel !」 と言ってもどこか変だったらしく。梟翁は笑いながら言い直し続けたものだった。RとLが隣り合わせに出てくるので、日本人には発音が難しい単語として知られているらしい。

テレビを観ていて珍しい動物や鳥などの名前を英語で言っては「俺はなんでこんなことを覚えているんだろうな。」なんて自嘲気味につぶやいていた梟翁。同時通訳をするために、かなり広範囲の言葉を覚える必要があったそうだ。

英語だけではなく日本語でも、読めない漢字やわからない言い回し、昔の出来事など、聞けばすぐに教えてくれた。私は教え甲斐のない生徒だったと思うけれど、たくさんの知識や知恵を学ぶことができて言葉にできないくらい感謝している。

梟翁の頭の中に入っていた膨大な知識や英語のスキルは彼が亡くなった時に消えてしまった。もし人間の脳の情報をコンピューターのようにメモリーに保存できていつでも取り出せて使えるようになったら、と夢のようなことを考える。今は画像や音声がデジタルデータとして保存できて、いつでも再生できる。それは一昔前には考えられなかった夢のようなこと。それを思えば何十年後には人間の脳のデータが保存できていつでも再生できるようになるのかもしれない。もしそんなことができるようになったら、人間社会はどうなるのだろう?

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