忙しかった三月が過ぎ、落ち着いて四月を迎えることができた。
久しぶりに読書がはかどって充実した気持ちで過ごしていた夜、私のバイオリン好きを知る友人からメールが届いた。ひまりちゃんがニュース番組に出ることを教えてくれたのだ。ひまりちゃんとは吉村 妃鞠(よしむら ひまり)、13才の天才バイオリニスト。数年前にyoutubeで知って以来、その天才ぶりに驚愕している。俗っぽい言い方をすれば、バイオリン界の大谷翔平ではないかと思っている。
バイオリンの天才は10才そこそこから頭角を顕すもので、どうして小さい子供が難曲を見事に弾けるのかと皆を驚かせる。けれどひまりちゃんはそれだけではない。ひまりちゃんが他の天才バイオリニストをさしおいてすごいのは、深みがある豊かな表現力なのだ。目をつぶって聴くと老獪なバイオリニストの演奏かと思ってしまうほどだ。五島みどりが登場した時も表現力に驚いたけれど、ひまりちゃんはさらにすごいと思う。まさに神から授かった才能と言うしかない。
私のバイオリン歴は15才から。中学の音楽の授業でメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲(通称メンコン)に感動し、それまで習っていたお琴をやめて習い始めた。大学ではオーケストラ部に所属し、到底オーケストラのバイオリンパートをしっかりと弾く技術はなかったから、とにかく練習量で何とかついて行くというお荷物バイオリニストだったけれど、楽しかった。
長いブランクのあと梟翁と出会ってからまた弾き始め、10年ほどでモーツアルトのコンチェルトに手が届くくらいになったものの、更年期の影響で集中するとめまいが出るようになってしまった時に離れたのだった。メンコンを弾くという見果てぬ夢とともに….。

そんな私が一番好きなバイオリン曲はバッハの無伴奏ソナタ&パルティータ。ひたすらバイオリンソロで演奏されるので、バイオリニストと対峙するような気分で聴けるのが魅力的な曲。五島みどりを中心にいろいろな奏者の演奏を楽しんでいる。梟翁はベルギーのバイオリニスト、アルチュール・グリュミュオーの落ち着いた演奏を好んでいた。大方のバイオリニストはこの曲の録音を、ベテランの域になってから満を持して行ってきた。五島みどりは41才、ギル・シャハム43才、グリュミュオー39才、といった具合だ。ひまりちゃんの円熟の無伴奏を楽しめるほど長生きできるだろうか?

今年も桜の季節が巡ってきた。
桜の美しさを愛でると、すかさず梟翁との愉しかった花見の思い出がよみがえってくる。
さまざまの事思い出す桜かな 芭蕉
この句がしみじみと胸に迫るようになった。
—Sponsered Link—
この記事へのコメントはありません。