東風ふかば匂ひたつかな鄙の家
立春が過ぎたばかり、まだ冬のように透明な空に暖かな東風が吹き、庭の福寿草が少し開いた日、二人がやってきた。福寿草は梟翁と一緒に買い求めた最後の花で、毎年少しずつ芽が増えて私に力を与えてくれる。
一人暮らしは2年半で終わり、三人暮らしが始まった。私と娘、もう一人は娘の夫Hさん。思っていたより戸惑うことなく生活ができている。お互い大人だし面倒を見合うことも干渉し合うこともないので、案外気楽なものだ。
昨今は治安が悪くなり毎日のように泥棒や強盗事件が起きているので、二人が来てくれて本当に心強い。一軒家で夜は雄鳥ピー太だけが一緒だったのと較べると、格段の安心感である。
二人には二階に住んでもらい、私は一階の梟翁の部屋に移った。二階にもトイレはあるけれど、台所とお風呂は一階で共有というスタイルだ。
夕飯は一緒にとることが多い。同居している家族のために料理をするのは本当に久し振りだったので、食卓を囲む団らんや、作ったものを美味しいと言ってもらえるのはやはり嬉しい。一人前が三人前に増えたのは少し大変だけど、娘と交互なので苦にはならない。
また、娘が作った料理がふつうに美味しいのに感激している。親ばかと思われるかもしれないが、ずいぶん前に一度だけ娘の家でご馳走になったときの印象が良くなかったので、心配していたのだ。娘も十年以上主婦をしてきたのだから当たり前かも知れないけれど、ホッとしている。
台所ではさらに嬉しいことがあった。Hさんが包丁を研いでくれるのだ。「趣味だから….」と我が家の包丁を全部研ぎ直してくれて感激した。砥石を何種類も持っていて水に漬けているのだから本格的だ。梟翁も刃物を研ぐのが好きで、しょっちゅう研いでくれたものだった。よく切れる包丁で料理ができる生活が復活したのだ。

三人暮らしが始まって3週間が経った。生活の動線は確保しているので不自由はないものの、引っ越しに伴う物の整理や片付けがなかなか進まず、2階から降ろした物の段ボールと梟翁の物に囲まれて暮らしている。
2月の月命日には3人でお墓に参り、お経を詠んで「よろしく….」と挨拶をした。居間には相変わらず梟翁の祭壇が陣取っていて、無言のうちに私たちを見守ってくれている。
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