木枯らしが吹いて初霜が降り一気に寒くなったころ、アンちゃん(6歳の雌鶏)の羽がごっそりと抜けて換羽が始まった。

鶏の換羽をご存知ない方が多いと思う。「換羽」でググってみると、「日が短くなる秋から冬にかけて、雌鳥はホルモンの関係で大体2ー4ヶ月休産します。その間、雌鳥の古い羽毛が抜け落ちて新しい羽毛に換わる「換羽」が行われます。」とある。鶏は恐竜の子孫なので、爬虫類の脱皮のようなものだと思う。
私も初めて換羽の子を見たときは病気かと心配したものだった。けれど驚くことに、羽が抜けて哀れなほどスカスカになった子が、1ヶ月も経つと新しいフワフワの羽が生え揃い若返って美しくなるのである。また、換羽のあいだは新しい羽を生やすのに体力を使うので、卵を産まなくなる。再び卵を産み始めるのが換羽終了の証で、見た目が若返るだけでなく、卵の質も若返るので本当に驚く。
「強制換羽」という養鶏家のテクニックがあり、それは、一定期間餌を与えずにいると鶏が換羽を始める習性を利用して換羽を促し、落ちてきた卵の質を回復するというものだそうだ。大抵の雌鳥は2歳ごろの秋から冬に初めての換羽をする。その最初の換羽を促して卵の質を戻し、淘汰するまでの期間を数ヶ月延ばすのだろう。

最初の換羽を終えた雌鳥は、その生涯の中で一番美しい。子供っぽさが抜けたキリッした顔つきになり、体全体が丸みをおびる。娘から大人の女性に変身するのだ。そんな美鶏をだっこしてフワフワの新しい羽の手触りを楽しむのも養鶏の楽しみである。換羽は程度の差こそあれ毎年行われる。鶏の神秘的な生態に接していると、私も毎年お肌を若返らせたいなぁ、と羨ましく思わずにいられない。
鶏によって卵の色や質が違うように、換羽の顕れかたもそれぞれの鶏で異なる。一見してハゲハゲの姿になる子は少数で、大体の子は羽がたくさん抜けてもそれほど目立たずに換羽が過ぎる。毎年激しい換羽を繰り返す子、今年のアンちゃんのように数年ごとに激しくなる子、いろいろである。ちなみに、爬虫類のような鶏の足も、少しずつ鱗が剥がれて脱皮をくり返している。

こんなことがあった。昨年の秋、ピッコがハゲハゲの惨めな姿になってしまった。ピッコはヒヨコの時に股関節を痛めたためびっこになってしまい、片足でピョコタンピョコタンしている頑張り屋さんなので、特に可愛がっている子だ。私はきっとびっこだから苛められたのだと思いこみ、訪れた友人にピッコを見せて「嫌なことだけど、鶏は苛めることがあるんですよ。」と話してしまった。ところが一ヶ月後にピッコは美しくよみがえり換羽だったとわかった。件の友人に写真付きのメールを送って自分の勘違いをわびたところ、「他の鶏ちゃんたちの名誉も回復しましたね。」という返事が来たので反省し、他の子たちに「誤解してごめんね。」と謝ったものだった。

そして、今年のアンちゃんである。アンちゃんは6歳。好奇心が強くて赤茶色の羽が特徴なので「赤毛のアン」にちなんでアンちゃんと名付けた子。今年一番激しく羽が抜けていたので庭に連れ出し写真を撮った。ところが私の膝の上から逃げ出し、茂みの多い鶏小屋の裏に逃げ込んでどこかに隠れてしまった。あいにく用事があり、「猫に捕まるかも…。」と心配だったが、そのまま3時間ほど家を空けてしまったのだ。帰宅して無事を祈りつつ「アンちゃん、アンちゃん。」と呼びかけてみると………小さな鳴き声が聞こえてアンちゃんが鶏小屋の脇に姿を現してくれた!この時ほどアンちゃんが可愛く見えたことはない。でも、「アンちゃん!」と近寄るとまた逃げ出してどこかに隠れてしまった。がっかりしたけれど一旦その場を離れて10分ほど経ってから戻り、もう一度呼びかけてみた。すると、アンちゃんはまた姿を現し逃げずに受け入れポーズをとったので、無事捕まえて一件落着。
今回は初めて駄目かもしれないと諦めかけたが、猫などに捕まらなくて本当に良かった。10年ほどの養鶏で鶏が逃げて戻らなかったことは一度もなく、幸運なことだと思う。

(注)我が家の鶏はアローカナクロス(アローカナとレグホンの混合種)なので、その限りでの経験にすぎず、他の種と多少の違いがあると思います。
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