夜11時ごろ、歯磨きをしていたら鶏がバサバサっと飛ぶ音と「こっこっこっこっこ!」という警戒の声が聞こえてきた。猫か何かが近くを通り過ぎたのかしらと思っていたら、なかなか止まない。何の異変かと重い腰を上げて鶏小屋に様子を見に行った。
「どうしたの?」と鶏小屋に入ると、いつもきちんと止まり木に整列している鶏達が地面に降りていて落ち着かない。懐中電灯で鶏小屋を見回した。すると、産卵箱にシュルシュルと動くものを認めた。蛇!緑色のアオダイショウだ。しっぽの末端が産卵箱の死角にシュルッと消えて、シーンとなった。
私は冷静だった。蛇が深夜の鶏小屋に出たのは初めてではなかったからだ。すぐに家に引き返して軍手をつけ錐を手に戻った。蛇のしっぽが消えたあたりの産卵箱を懐中電灯で照らすと、隠れていた蛇が光に驚いて逃げだした。ヘビの動きは早く、あっという間に産卵箱の対面に進まれたものの、仕切板のところで動きが少し止まったのを狙って錐で刺した。蛇は錐に貫通され木に固定された。「これでよし」と、とどめをさすための枝切りバサミを取りに行った。しかし小屋に戻ると蛇は錐を外して移動していた。意外に力が強いのだ。もう一度追いつめて錐をもっとしっかりと刺し、「ごめんね!」ととどめをさした。
鶏達に「これでもう安心だからね。」と声をかけ、蛇の亡骸を空の植木鉢に放り込んだら、胴がくねくね動いて気味が悪いので、蓋をした。

5年前だったか、初めて鶏小屋で蛇に遭遇したことを思い出す。
やはり夜遅い時間だった。今まで聞いたことのない大きな悲鳴が聞こえてきた。梟翁と鶏小屋にかけつけると、一羽の鶏が蛇にぐるぐる巻きにされていて驚愕した。もう少し駆けつけるのが遅かったら絞め殺されていたかもしれない。
懐中電灯の光に驚いた蛇がシュルシュルと鶏のいましめを解いて産卵箱の裏に逃げ込んだ。このままにしておくわけにはいかない。どうしようかと考えて、掴むのは大変そうだから錐で刺すのがよいだろうと、家から錐を持ち出した。産卵箱の裏から蛇を追い出して錐で貫き、梟翁にとどめをさしてもらった。梟翁は膝の具合が悪く鶏小屋で蛇を追いかけるのは無理だったので、錐を刺すまでは私の役目だったのだ。鶏を護らなければという一心で暗闇のなか懐中電灯の光をたよりに蛇を追いかけた。シュルシュルという蛇の動きとドクンドクンという心音が意識を支配した。

この時の蛇は2m近い大物だった。蛇に締められて悲鳴をあげていたのは、『マダラー』と名付けていた黒と茶色のまだらの鶏。マダラーが締められている恐怖の現場をみて、あることが思い出された。それは2羽の鶏の死だった。どちらもお尻から内蔵が食べられたような形で突然死んでいたのだ。鶏は”尻つつき”が高じて仲間に殺されることもある、というネットの記事があったので、そうなのかなあと残念に思っていたけれど、あの2羽の死はきっと蛇のせいだったのだ。
ぎりぎりで助かったマダラーは、ショックで丸1日以上水も口にしなかったけれど、スポイトで砂糖水をあげたら元気が出て順調に回復した。蛇に締められたときに股関節を痛めてしまい少しびっこをひくようになったものの、8才になった今も元気に生きている。
今回の蛇は1mほどでなので鶏を絞め殺すには力が足りず、卵狙いだったかもしれない。そういえば一週間ほど前から卵の数が減っていた。日照時間のせいかと思っていたけれど、蛇のせいもあったのだろう。鶏小屋は四方をコンクリートと金網で囲い害獣が入れないようにしてあるけれど、前庭を蛇でも入れないようにするのは難しい。夜は小屋と前庭の間を仕切板で閉めるので、蛇は日中に小屋に侵入していたのだろう。卵は私が回収してしまったから、お腹が空いた蛇は鶏のお腹の中にある卵になる前の黄身を狙ったのかもしれない。
蛇退治なんて、できればやりたくない。けれど放っておけば鶏たちがやられてしまう。鶏達を守るために躊躇せず冷静に実行した私を褒めてね、と梟翁の遺影に語りかけ線香を点けた。いつもの一本に蛇の分の一本を加えた。
翌朝、蛇の亡骸を埋めて鶏頭の花3本を供え、短いお経をあげた。

この記事へのコメントはありません。