梟翁と私はかなりの相撲好きで、本場所の時は欠かさずテレビ観戦を楽しんでいた。といっても午後4時から6時の生中継を観る余裕はないので、「大相撲ダイジェスト」という20分余りの番組を録画しておき、朝御飯をいただきながら前日の取り組みを観るという楽しみ方だった。
この場合、午後6時に取り組みが終わってから翌朝の番組を観るまでの時間が少し問題であった。夜の間に取り組み結果を知ってしまうと、翌朝のダイジェスト版での楽しみが半減してしまうからだ。そこで、夜のニュース番組を観ている時に相撲が出てきたら、即座にチャンネルを変えるという掟ができた。
それでも今のご時世、知りたくなくてもネットで流れてくるニュースをうっかり目にしてしまうことがある。数年前、とても盛り上がった場所の千秋楽の結果を偶然知ってしまった私が、「やっぱり白鵬が優勝したね。」と思わず話したところ、梟翁が「こら、教えるんじゃないよ!」と結構な剣幕で怒ったことがあった。また逆に、梟翁が口を滑らせて私が怒ることもあった。そこで、偶然結果を目にしても教えてはいけないという掟ができた。
2年程その掟は守られたものの、さすがに千秋楽の結果については目にしてしまうことが多かった。翌朝のダイジェスト版を観ながら、「どっちが勝つかなあ」とお互いに顔を見合わせながら白々しい調子で話すという滑稽な光景が繰り広げられることとなったのである。そこで、千秋楽の結果だけは当日夜のニュース番組で観る、というルール変更が成されたのだった。
独りになった今も、梟翁の遺影に話しかけながら、ダイジェスト版を観戦している。
前振りが長くなってしまったが、ほどほどの相撲好きなのに、私は国技館で相撲を観たことがなかった。相撲のチケットを取るのは難しいと聞いていたから、どうせ離れた席になるならわざわざ行かなくてもいいだろうと思っていたのだ。梟翁は大使館勤めだった頃、大使に日本文化を紹介するということで何回か行ったらしいが、テレビで十分だと言っていた。
そんな私にひょんなことから相撲好きの友人ができて、誘われるままに国技館に行くことになったのだから、人生はわからない。女性同士で相撲の話で盛り上がれる人は滅多にいないので、相撲の話し相手を求めていた私に梟翁が引き合わせてくれたのかなあ、と思っている。
初場所の5日目、生まれて初めて両国国技館の中に入った。国技館の中はさしずめ相撲テーマパーク。フォトスポットやおみやげ屋さん、食事処、相撲博物館など、歩いているだけで楽しい。2階席だったので土俵の力士はテレビで見るよりも小さいけれど、テレビではわからない臨場感が味わえる。
焼き鳥やお弁当をいただきながら観戦する。友人の”推し力士”の四股名を一緒に大声で呼んだり、お隣席の相撲に詳しい女性との会話が弾んだりと、楽しい時間があっというまに過ぎた。
次の五月場所も一緒に観戦しましょうと約束した。両国国技館での本場所は年3回である。ちょっと贅沢な道楽だけど、エスカレートさせずに続けていきたい。次はもっと早い時間に国技館に入って相撲博物館も見学しようっと。
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