くろピーが死んだ。
一昨日の昼すぎ、帰宅して「くろピーただいま」と声をかけながらケージを見やると、動かない骸となっていた。一昨日から餌はもとより水にも口をつけず足がすっかり萎えて目を閉じることが多くなっていた。覚悟はしていたけれど、ひっそり一人で旅立ってしまったのが悲しい。
餌をあげてもすぐに食べず、首をすくめるように立っているのが、鶏が弱り始めた時のシグナルだ。1ヶ月ほど前くろピーもそうなっていたので、正露丸をうすく溶かした水をスポイトで与えて様子をみた。ただの食あたりはだいたいこれで治るのだ。でもくろピーは回復せず、体は羽のように軽くなり元気がなくなっていった。
それから数日後、なんとくろピーの頭が血みどろになっていた。これが鶏の恐ろしいところで、何かの拍子に弱いものいじめをしてしまう。「誰がやったの!?」とほかの鶏たちに問いただしてもわからない。急いで傷の手当てをし、それ以降は家の中に隔離して面倒をみることになった。
我が家で飼っているのはアローカナという南米産の品種にレグホンを交配したアローカナクロスという種類の鶏たちで、青みをおびたきれいな卵を産む。羽色は明るい茶色を中心に白から黒まで幅広い。頬羽が生えていて見た目が愛らしく、性格も人なつこくてかわいい感じがするので気に入っている。
なかでもくろピーは40羽以上飼ったなかで唯一の黒いアローカナだった。それだけでも目立っていたのだけれど、抱っこのおねだりをするようになった初めての鶏でもあった。私が他の鶏を抱っこしているときに寄ってきて、私の脚をつつく。私が目をやると甘え鳴きをしてつぶらな瞳でじっと見つめる。それが抱っこのおねだり。「そう、抱っこしてほしいの?」と体を持ち上げると腕の中にすんなりと収まるように抱かれ、安心しきって気持ちよさそうにするのが何ともいえず可愛かった。
そんな抱っこ大好きのくろピーが、おもしろいことに、換羽のときは極端な抱っこ嫌いになった。多くの鶏は年に一度、羽が抜け換わる。鶏によって目立たずに少しずつ羽が抜けて新しい羽に換わる子もいれば、ばっさり羽が抜ける子もいるのだが、くろピーはとりわけばっさり羽が抜けるので、最初は病気かと心配したほどだった。
羽が抜けてむずむずするのだろうか?抱っこしようと手を伸ばすと必死な勢いで逃げてしまう。そこで餌を食べて油断している隙をねらって抱っこをしてみたら、次からは餌をあげても遠くに離れていて食べに来ず、私が小屋から出るのを待つようになってしまった。なんて頭がいいのかと舌を巻いた。そういう行動は犬や猫なら当たり前かもしれないけれど、鶏ではきわめて珍しい。
くろピーの最後の時を家の中で一緒に過ごすことができて、良かったと思う。雄鳥ピー太は日中鶏小屋で過ごし夕方に家に戻ってくる。優しいピー太は、くろピーと仲睦まじく並んでいた。ピー太とくろピーは同い年で、見るからに仲が良いのがわかったので、私はくろピーを「ピー太の第一夫人」と呼んでいたほどなのだ。隔離生活の当初、ミルワームをあげると喜んで食べたくろピーだったけれど、やがてそれも思い出したように少しついばむだけになっていった。そして……
動かなくなったくろピーを、庭の隅にある「にわとりの墓」に花と線香を供え経をあげて葬った。7才2ヶ月だった。5年前に淘汰をやめた我が家で、初めて天寿をまっとうできた鶏といえるだろう。最初から最後まで特別な雌鳥だったくろピーちゃん。我が家に来てくれて、本当にありがとう!
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