息継ぎの話

カラオケにしろ歌曲にしろ、歌は声を出して歌う。グッと吸い込んで徐々に吐く。ここぞという処ではもう一度さっと吸い込んでどんと吐く。まあ、それほど細かく書かなくても誰でも知っていることだ。それをあえて改めて説明するからには理由がある。そう、歌を歌うことと英語を話すこと、書くことがとても似ているからだ。歌では息継ぎ、英語ではpunctuationという「切れ目」をどう考えるかがどちらにも欠かせない、という話しをしよう。

カラオケではとくに息継ぎの決まりがあるわけではなく、歌詞の意図を掬って旋律の切れ目で息を継ぐわけで、改めて「勉強」するまでもなく、歌心、詩心を弁(わきま)えていれば自然に歌える。ただ、歌曲になるとやや厄介になる。旋律の流れに歌詞が載っていく感じだから、作曲者の注文次第で息継ぎが厳しくなる。だから歌曲の楽譜を見ると、作曲者の意向でV字マークが書き込まれている。「ここまでひと息で歌ってくれ」という意味だ。歌詞にも旋律にもそれぞれ流れがあって、途中で切っては意味が崩れてしまうからだ。

同じことが英語を書いたり話したりするときに滅法肝心だということを改めて考えてみたい。とくに話すときに、話し言葉は「後戻りできない」という道理を弁えているかどうかで話し方が変わってくるのだが、どうだろうか。

You know, the book you talked so much about and sent me copy with other stuff the other day happens to be one of those my brother already has.

こんなことと話したとしよう。これが歌曲だとしたらV字マークは何処に入れようか。歌曲ならばただ2カ所、know,のあととhappensの直前しかV字は入れられない。そうしないと聞いている方が迷惑する。カラオケだからとあちこちで切ったら支離滅裂になりかねない。

歌も英語も息が続く限り切らなかったり、今日は息苦しいからと矢鱈に切ったりせぬものだ。百歳近いお年寄りが英語を喋れば、意味よりも息継ぎの都合で妙な処で切るようなこともあろうが、それはそれで聴き手が気を付けて理解してやれば済むことだ。

歌曲でも物語でも、名手の手になる作品は必ず「息継ぎ」が見事に作り込まれているものだ。だから名作は読みやすく歌いやすい。話し上手の語りは聞きやすいから理解しやすい。それぞれ独特のリズムを活かした旋律や文章は当然の箇所にV字を予想して描かれ書かれている。だからここぞという箇所を探り当てて読み、聴くのが賢い読み手、聴き手というわけだ。

英語を聴くときは勿論、文章を読むときも旋律的なリズムを感じ取ることが肝心だ。そのために音読は極めて有効だ。声を出すまでもないが、もぐもぐと音読する、つまり活性化した黙読を実践して欲しい。聴きながら読みたいならaudiobookを習慣的に聴くのがいい。

知らぬ間に読み聴きの技を身に付けたいという諸君にお勧めなのが、BBCのradio playだ。youtubeに小一時間ものが何百とアップされている。ラジオ劇の面白さもさることながら、読み手が名人揃いでハズレがない。このようなコンテンツを選んで、ぜひまともな英語を身に付けて欲しいものである。

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