英語は耳から

私は昨年末、ウォークマンを手に入れた。運動不足を解消する「聴き歩き」のツールとして授けられたのだが、いま、16ギガにMitchell, Steinbeck, Maugham, Hemingway, Conan Doyleなどを取り込み耳よりの図書室としている。以前漱石の「坊っちゃん」をyoutubeで聴きこんだことがあったが、英語の世界にも日本語のそれを上まわる規模のaudiobookが広がっていることを知ったのだ。活字が追い難くなっている不便が解消され、聴き歩きに限らず日常的に耳からの読書の時間がめっきり増えた。

さて、話しはここからである。Hemingway(老人と海)で老人の呟きを聴きながらふと思い付いた。ほどほどの読み手なのだろう、この作家の切れ味いい文章が見事に「切られて」いることに気付いたのだ。何の無理もなく、文脈を浮き彫りにして読まれている。声を介しているだけ臨場感が増して、文字を読むより話しが染み通る。ふむ、これは長文解釈の意外な便法ではないか。

長文解釈の難しさは、「文章をどこで切るか」にある。それが分かれば長文は短文の塊だから、長文もくそもなくなる。しかし、現実にはそう単純なものではなく、いわゆる長文は単文、重文、複文が入り乱れて、修飾関係の句あり節あり関係詞ありで複雑怪奇。それをaudiobookの読み手は、文脈を間違いなく伝えるための「ここぞ」という箇所で見事に切ってくれる。だから聴き手は、文字を見なくても文章の文脈を追えるのだ。

そう、物語を選んで読み手の巧拙を案配すれば、audiobookは格好な長文解釈のメディアムになる。子供たちのために創られたaudiobookなどもあるようだ。それぞれの「聴力」に合わせてこれぞという材料を手に入れて、ぜひ「耳からの長文解釈」に挑戦していただきたい。慣れてくれば、テレビで馴染みの「大草原の小さな家」などは素晴らしい材料だ。

くり返せば、長文解釈の落とし穴は「切れ目」にあること、audiobookは聴くひとの理解に配慮して読み込まれているということ、それを聴き取れて初めて「英語が分かる」と云えるのだ、ということ。心あるひとならば、さまざまなレベルのaudiobookを聴きこなすことで、「使える英語」をマスターできるはずだ。

終わりに、もしSherlock Holmesものを「聴きたい」と云われる方々があれば、
Greg Waglandの名調子が Magpie Audio (https://www.youtube.com/channel/UCDaXZCPj6W-Oo_DqkhCECVw)
にあることをお伝えしておこう。

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