わが家にも年中さまざまな仕来りがある。田舎さながらの行事はさて措き、出色なのが秋の大根狩りだ。ある秋、たまたま出向いた那須塩原で出逢った大根に魅せられて、そう、もう何年になるだろうか、秋の気配に誘われて彼の地に馳せ参じ、数十本の大根を仕込む仕来りが根付いている。
なんと巨大台風が来襲するという。折角の大根狩りが無駄骨だった去年の苦い思い出が蘇る。台風で大根畑がやられての品薄で、ハンパな大根を数本だけで無駄足をしたのだった。昨夜、たまたま某テレビ番組で台風に荒らされた大根畑を目撃、これは天下の一大事、塩原は大丈夫かと思案する暇もなく塩原行きを即決。思い立ったが吉日とて、今朝、圏央道から東北道へ車を走らせた。
塩原高原大根という。この大根の瑞々(みずみず)しさと食感の粋は食べてもらわねば分かるまい。炊いてよし、削いでよし、漬けてよしの逸品で、料理好きの妻は、『大根が呼んでいる!』とばかり欣喜雀躍、勇んでハンドルを握ったのは言うまでもない。車中、まずは大根話に花が咲き、明日はなにを措いても鍋だろう、漬け物は今年はなに漬けにしようか、早速だれそれに裾分けしよう、などなど。
那須塩原で高速を下りる。千本松牧場を右手に日光への一本道をひたすら走る。途中左に折れ、山道をくねくねと走り登る。例年この辺り目の醒めるようは紅葉なのだが、無念や、今年は未だし。口惜しい思いで走ること数十分、馴染みの菅原農場の出店に着く。予約して置いた高原大根、鰻なら松竹梅の『竹』三十本を店子に載せてもらう。遠路有り難うございますの言葉に添えて、数本のワケあり大根を土産にもらい受ける。『また来年もよろしく』の挨拶を背中に帰路についた。
途中、例の千本松牧場であれやこれやの買い物をする。いつものことだ。ベーコンのブロックやらジャーキーやら、良さそうなチーズに好みの牛乳も仕込んだ。評判のソフトクリームを味わう。傘がいるかいらぬか程の雨、それでも台風を出し抜いた安心感と見事な大根をゲットした満足感で『気にならない』とは妻の弁。
帰路は圏央道のお陰で順調そのもの、七時のニュースに間に合う帰宅は予想外だった。今年の大根狩りは咄嗟の思いつきにしては上々の出来だった。ちなみに、大根を長めに、大胆に削ぎ込んで煮込む『大根鍋』が季節の味だ。いつだったか、山形の某旅館で味わったものがわが家に根付いたもので、いまやわが家では『秋の料理』の定番だ。それには塩原の高原大根が欠かせぬ『定番』なのである。
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