「知恵袋」にはある種のペイソスがあって、しみじみ泣かされる。戦後しばらく、日本は進駐軍の「置き土産」で悲喜劇が絶えなかった。国元へ帰ったアメリカ兵に気が残っても英語が書けない。彼女らのそんな思いを汲んで、英語の手紙を代筆してやったご仁が、渋谷の、確か道玄坂あたりにいた。あの頃あの界隈が「恋文横丁」と言われていた所以だ。そのご仁、女性たちのため息を切々と口述筆記したそうな。
いや、実はそれを思ひ出させるお訊ねがあって、何歳ぐらいの女性だろうか、私はひと言、口を添えて上げた。
Q 今、外国人の方に言い寄られて何度か会ってみるのですが、やっぱり何度会っても、ほんのちょっとしか好きになれません。いなくても気になりません。でも、もっとたくさん会ったら本当に好きになる可能性もありそうなので、様子を見たいと言うつもりです。なので、間違えないように今の 気持ちを伝えたいのですが、あなたのことはほんの少ししか好きになれないの (全く好きじゃないって訳じゃないんですが、自分で本当にこの人のこと好きとは言えないので。)
I can’t like you very much. で「少ししか好きになれない」になりますか?
「いなくても気にならない」って No matter without you.って感じですか?
自分の気持ちを正直に伝えたいので、よろしくお願いします。
私は、こう答えた。
A 戦後渋谷に英語が分からない女性のためにラブレターを代筆していたひとがいたんです。いつしかそこが恋文横町とよばれるようになった….。あなたの質問を読んでそのひとになった気分がします(笑)。微妙なところだからうっかりしたことはいえないと思うんだが、こんな風な表現が相手を傷つけないと思うので参考にしてください:
I’m fond of you, but not enough to be able to say ” I like you”.
(Because) I feel more or less the same with or without you.
あくまでご参考まで。
いや、質問に答えながら、私には恋文横丁のご仁のやるせない思ひがじーんと伝わってきた。言葉で心情を伝える難しさ、言葉の選び方、音感、余韻など、惻々(そくそく)とした感情の吐露….、そのご仁の筆使いを見てみたいものだ。
こう見ると、英語も捨てたもんじゃない。この面白さに気づいてほしいと思ふのだ。
ご機嫌よう。
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